授業No.029
授 業:「ビデオの使い方 たぶん間違ってるけどいいじゃない」
対 象:千代田区九段小学校
日 時:2009年10月21日・10月22日
29回目は千代田区立九段小学校の5年生61名を対象に授業を行ないました。講師は美術作家の泉 太郎氏(2002年本学大学院油画専攻修了)です。
ビデオカメラを使って、不思議な世界の映像に出たり、入ったり…?いつも見慣れた場所で撮影した自分たちの姿を、ふとした発想の転換と工夫で、ユーモラスな風景に変えてみます。映像と実物を組みあわせたインスタレーションを通して、映像の原理も学びました。
講 師:泉太郎
(美術家)

2009.10.21wed. 8:40 〜9:15
「泉 太郎先生の紹介」
泉先生は普段どんな活動をしているのでしょう。先生の作品「低速ベンダー」・「ラマ」・「道の尾」・「ナポレオン」を上映しながら、つくった経緯や方法を話していただきました。身近な風景がアイデア次第でユーモアあふれる映像になっています。児童も思わず「こうなっていたんだ!」と声に出していました。


9:15 〜9:35
「授業で体験する作品について」
今回は泉先生の作品「フィッシュ・ボーン・ハンガー」と同じ方法で班ごとに作品制作をします。普段のやり方ではない方法でビデオ機材を使い、映像と実物を合成したインスタレーションを行ないます。自分たちが小さくなってテレビゲームの画面に入り込み、冒険しているような不思議な映像世界を体験します。


「撮影のしかた」
泉先生の実演を交えて、撮影方法とビデオカメラの使い方を説明しました。先生がイスに乗っている映像がテレビモニタに写っています。ビデオカメラの画面上で、テレビモニタの前に置いてあるペットボトルの蓋と、先生の足の位置を合わせると、スクリーンに投影されている映像では、まるで蓋の上に立っているかのように見えます。小さな物の上に乗ったり、急斜面を上り下りするなど、現実では簡単にできない状況を冒険している気持ちで演技と撮影に挑みましょう!




9:40 〜10:15
「撮影」
小学校隣りの東郷公園にて撮影です。ビデオカメラのモニタには、短い線や斜めの線が描かれた透明フィルムが貼ってあります。この線に出演者の足の位置や、動く範囲を合わせて撮影します。一体どういう映像が撮れるのか、先生が地面を這うパフォーマンスをして見せてくれました。みんな身を乗り出してビデオカメラをチェックしています。
撮影は5名〜6名ずつの班に分かれて、監督・カメラマン・タイムキーパー・出演者という役割を交代しながら行ないました。まず出演者とビデオカメラの距離を決めるため、モニタに貼られたフィルムの線と出演者の足の位置を合わせます。ストップウォッチを持ったタイムキーパーの合図で録画開始、60秒で1カットとしました。出演は1名だけでもよいし、途中で交代するのもよし、複数名で演技する班もありました。1日目はここまでです。

 

 

編集
放課後、図工準備室で泉先生が児童の撮った映像を約1分に編集しました。翌日の授業で、お披露目されます。図工室ではスタッフが機材の設営を行ないました。



2009.10.22 thu. 8:40 〜9:00
「イントロダクション」
機材が配置された図工室で2日目の始まりです。昨日撮影した映像を一体どのようにして使うのでしょうか?まずは泉先生が編集した各班の映像を見てみます。少し早回しで編集されていて、人の動きがコミカルになっていたので、まるでテレビゲームのキャラクターのようでした。

 

 

 

 


「インスタレーションの説明」
映像の二次元性と遠近感を利用して、図工室の画材や道具類と組み合わせてインスタレーションを制作します。先生から、普段とはちょっと違う映像機器の使い方をしてみましょう、というお話がありました。
テレビモニタに流れる各班の映像に合わせて、モニタの前に工具・文房具などの日用品、空きビンや木の枝や玩具を組んでいきます。さらにそれらを、ビデオカメラで撮影します。テレビモニタに流れる映像と、実物が合成された映像が、スクリーンに投影される仕組みになっています。画面の中では、まるで自分がペットボトル蓋のように小さな物の上に乗ったり、鉛筆からぶらさがるという、現実ではできない状況がつくり出されます。

 





9:00〜10:00
「制作」
ビデオカメラのレンズと物の距離を、スクリーンの映像で確かめながら組んでいきます。レンズと物の距離は、思ったよりも近づけなくてはいけなかったり、逆に近すぎると映像と合わないこともあるので、コツをつかみながら制作を進めていました。映像はループ再生をしていましたが、シーンの切り替えが早く、どこに物を置くかを試しているうちに、次のシーンへ進んでしまうので、一時停止をくり返して作業しました。「映像に出るのと、映像をつくることは別なんだな」と話をする児童もいました。

 

 

 

 

 

10:00〜10:15
「鑑賞タイム」
各班の作品を順番に見ていきました。みんな、他の班の作品に興味津々です。先生から、「演技を工夫して先生をも驚かせた班、撮影場所の背景にもこだわった班、テレビモニタの前に組む物の質感をうまく利用した班など、それぞれのユニークな世界を見ることができましたね。なるほど、と思う工夫がたくさんありました。」とお話されました。9:00 ~10:00








出前アート大学を終えて
講師 泉太郎(美術家/2002年本学大学院油画専攻修了)

短い間でしたが子どもたちと接していて、自分が子どもの時、上手く絵を描くように努力していて、おそらく今見ると子どもらしい奔放な絵を描けていなかったのではないかと思い出しました。絵が好きだと言いながらもどこか複雑な気持ちでいて、それは今でも同じです。好きと簡単に言えるような存在では無くなってしまったのはありますが、楽しかった図工の記憶より、むしろ自分がそこから抜け出しながら探っていくことの楽しみを知れたのはいつだったのか考えていました。知らないものを見たいという欲求は常にあり、1番手っ取り早いのは、知らないものを自分が作るということですが、子どもは大人から見た子どもらしい絵を描くことから自由になれる瞬間がきっとあって、小学五年生は、まさにその瀬戸際にあるように思いました。そして大人になると、いろいろなルールがあり、縛られているのが前提でも、そこから工夫して生きるために、またいろいろあるなぁ、と考えていました。
 最後にできたものも見応えがありました。普段作っている映像を見てもらえたのも、よかったと思います。作るのが好きな人が増えるのも良いけれど、見る楽しみを知ってもらうのも本当に貴重に思います。自分にとっても新しい経験で刺激的だったので、子ども達の中にも何かしら残せていたらいいなと思っていますが、それは不安でもあります。